アレグロミュージック 2014年来日アーティスト公演特集 「ラ・ヴェネクシアーナ」  

懸田貴嗣さんへのインタヴュー  
  ラ・ヴェネクシアーナのウラ話、歌劇「ポッペーアの戴冠」聴きどころ!!  

10月、ラ・ヴェネクシアーナの「ポッペーアの戴冠」日本ツアー・メンバーとして参加されるチェリストの懸田貴嗣(かけた たかし)さんに、お話を伺いました。(以下、Kと略します)


Q: 懸田さんがラ・ヴェネクシアーナと出会ったキッカケは。

K: 2007年に東京で目白バロック音楽祭というのがあり、ラ・ヴェネクシアーナ、バロック・ヴァイオリンのエンリコ・ガッティ、そして私が加わっているグループ、リクレアツィオン・ダルカディア、この3団体によるコラボレーション企画でモンテヴェルディのコンサートを行ないました。NHKBSでも放送されたんですよ。そのときにクラウディオ・カヴィーナと話ができ、いまミラノに住んでいると言ったら、「ホント? じゃ今度お願いするから連絡先教えてよ」と。その年の冬の初めに電話があり、「12月の何日から何日、空いている? “オルフェーオ”やるんだけど来てくれないか」って。それがヴェネクシアーナと仕事をしたキッカケです。

Q: どこで公演されたのですか。

K: スペインのセヴィリヤ近くにあるヘレスという町です。
  「オルフェーオ」は、彼らはもう何回もやっているのでリハーサルは全曲通さない。

Q: それは困りますね。

K: いやー、ほんと、困っちゃう。ざっとやって、じゃ本番という感じ。ドキドキでした。 カヴィーナから、これからも頼むよと言われ、それからですね。2008年からほぼレギュラーに近い形で一緒にやらせてもらっています。

Q: どのような作品を演奏されたのですか。

K: モンテヴェルディだと、次の年の「ポッペーアの戴冠」のプロジェクト。ヴェネクシアーナにとっては、2008年の秋が初プロダクションでした。ドイツの音楽祭でプレミエがあり、翌年から「ポッペーア」のツアーが始まりました。CDレコーディングも行ないました。さらに、2010年には、カヴァッリのオペラ「アルテミージア」のプロダクションも。 

Q: それはCDにもなっていますね。

K: 日本での仕事の都合があり、レコーディングには参加できませんでしたが、初演とツアーはすべて参加しました。2011年は「ウリッセの帰還」のプロダクションがあり、レコーディングもしています。オペラのプロダクションのほかには、マメリと“ラウンドM”というジャズのプロジェクトでドイツを中心にたくさん回りましたね。

Q:  反応はいかがでしたか。

K:  はい、とくにドイツでは大変ウケました。

Q:  懸田さんがCD録音に参加されているのは‥。

K: 「ポッペーア」と「ウリッセ」ですね。

Q: 「ポッペーア」のCDで共演されているテノールの櫻田亮さん、チェンバロの渡邊孝さんが、ラ・ヴェネクシアーナに参加したキッカケは何だったのでしょうか。

K: 櫻田さんはもともとカヴィーナと知り合いでした。以前からイタリアに住んでおられたし、それ以前、2007年の「オルフェーオ」のプロジェクトのときから参加なさっていたと思います。マドリガーレなどには参加しておられないと思いますが、オペラは「ウリッセ」まで常連だったのではないでしょうか。

渡邊は、僕と同じキッカケ(リクレアツィオン・ダルカディア)です。「ポッペーア」のときは、チェンバロが2台必要だったので、参加しています。

Q: 今回、カヴィーナ氏がチェンバロを担当されますがいかがですか。

K: いやぁ、彼はものすごく上手ですよ、下手なヤツがやるんだったら、オレがやった方がいい、と‥。それは確かにそう(笑い)

Q: CDでは、チェンバロがとても目立っていますね。

K:  あれは‥、ダヴィデ・ポッツィというミラノのチェンバリストが弾いています。彼は 僕が初めて一緒に仕事をしたとき、すでに第1チェンバロ奏者として活躍していました。

Q: いろいろな「ポッペーアの戴冠」の演奏を聴いてきましたが、このCDのチェンバロ、必ずどこでも聴こえていて、見事です。

K: ええ、ダヴィデはすばらしい奏者で、渡邊もビックリした。あんなに弾ける人はなかなかいないだろうって‥。

Q:  あの渡邊さんがビックリされるのですから相当上手なのですね。

私たちが今回、ラ・ヴェネクシアーナの「ポッペーアの戴冠」を日本で実現することを決断したのは、実はこのCDを聴いたからです。「ポッペーア」と言えば、アーノンクールから、ガーディナー(ナポリ版を使用)、ヤーコプスなどをはじめ、大御所の録音も揃っていますが、ヴェネクシアーナの演奏は、スンナリ入っていける。歌手も器楽奏者も現代的でノリが良く、いまの私たちの感覚に一番合っていると思います。これがひと昔前の演奏だと、少しかったるく感じてしまう。マメリがネローネ役をやっていますが、こんなにすばらしい歌手だったのかと、正直なところ私自身、驚きました。ストレートな歌唱に魅惑的な声質がいい。オットーネもいいし、脇役陣もみんないいですね。日本公演を決めて配役表をもらったら、マメリがポッペーア役で表記されていたので、これはさらに面白い!!と興奮しました。  

  懸田さんにとって、ラ・ヴェネクシアーナはどういう存在なのでしょうか。また、一緒にやっていて触発されたことは。

K: 例えばオペラを3日間で仕上げたりと、リハーサル時間がもう少しほしいと思うときもありますが、カヴィーナに言わせると即興性が大事だと。その分、本番にもの凄い集中力と勢いがある。なにが起こるかわからない。とにかくいまココに懸ける!という感じで、これ以上エネルギーを費やすグループは他にないですよ。だからもう終わったあとはグッタリ(笑い)。ただ後で録音を聴いたりするとスゴイ。例えば「ポッペーア」の最初の公演がドイツのヘルネという音楽祭で、ちょうどそのときの録音があります。細かい部分では、ちょっとグチャグチャのところもありますけれど、全体の持っているエネルギーがとても大きい。濃厚というか、熱い。それはこのグループの良さであり、カヴィーナの持ち味です。カヴィーナはとても音楽的な人だと思う。多彩なアイディアを持っていて、例えば、フレーズをぐっと伸ばしておいてから猛烈な勢いを付けることがあります。彼の場合、そうした緩急の差、伸び縮みが自在なのです。僕はカヴィーナと出会って、そうした自由な息遣いでもって、すばらしい歌手のように音楽を呼吸させることの魅力をあらためて認識しました。カヴィーナに出会わなかったら、そういう面に気付かなかったと思うほどです。

Q:  いままでどのくらい一緒に演奏されてきたのですか。

K: ざっとですが4050公演、それにレコーディングがあります。1か月くらい一緒にいることもあり、けっこう濃密な時間をヨーロッパで過ごしています。レコーディングや旅を共にし、何日間も一緒に同じホテルに泊まり、カヴィーナと毎日ご飯を食べて生活するといった感じです。

Q: ヨーロッパにはどのくらいの割合で行かれるのですか。

K: 去年までは1年に56回くらい行っていました。多いときは年間4か月ぐらい滞在しました。

Q: 懸田さんのHPを拝見すると、いろいろなところで演奏会をされているのがわかります。いままでの失敗談や、エピソードはありますか。

K: いろいろありますけれど‥、あれはドイツだったかなぁ‥。その日は、当日入りの本番だったと思いますが、飛行機に載せたハープが着かなかったのです。

Q: ちょっと待ってください、飛行機移動では、人と一緒に楽器を載せたのでしょ?

K: 実は飛行機に載らなかったようで、荷物は載せたけれどハープだけ置いてけぼりにされてしまった。リハーサル時間に間に合わせて欲しいと、代わりの楽器を要望したのですが、届いたのがモダン・ハープ! これでは使い物になりません。結局、本番ギリギリに着きましたが、本当にみんなハラハラして冷や汗ものでした。ハープがなかったら、「オルフェーオ」なんて出来ませんから。途中長いソロもありますしね。公演自体が無くなってしまうところでした。

Q: うわぁ〜、身につまされます。

K: あと‥、トルコのイスタンブールで公演があったとき、カヴィーナがチェンバロを弾いたのですが、チェンバロの譜面台に楽譜が製本せずにバラバラで置いてあった。おそらく本番前の最後のセッティングのときに、誰かが全部パラパラと落としてしまったらしいんです。それを誰も知らない、カヴィーナもね。係の人は、拾ってそのまま置いたらしいのですが、まったく違う順番で‥。ステージに出てきてカヴィーナが気付いた。いかにもイタリア人がやるゼスチャーをして、11枚お客さんのいる前で、順番に並べなおした。私たちはその間ニヤニヤしながらずっと待っていました。カヴィーナは、けっこう真っ赤な顔して怒りながら‥、なんていうことがありましたね。

Q: いろいろハプニングは起こるものですね。歌手の方の話はないですか?

K: レコーディング中に喧嘩して帰ったということはありましたね。

Q:  えっ、カヴィーナさんがですか。

K: はい、これは弦楽器奏者の録音出番が済んだ後に起こったことで、その場にいた同僚から聞いた話なのですが、「ポッペーアの戴冠」で、イギリス人歌手イアン・ハニーマンと歌い方のことで喧嘩になってしまった。

Q: ハニーマンさん、とてもユニークな感じの人ですよね。どこが合わなかったのですか。

K: 間のとり方というか、テンポに関することです。楽譜通りではなく、さっきお話ししたカヴィーナの引き延ばしではないのですが、イアンはもっと激しく、アレンジみたいなことをやってしまう。演劇的要素が強すぎるというか‥。それがカヴィーナは気に入らなかった。でもライヴではなかなか面白かったです。アルナルタの役は、ちょっと変わったキャラクターの人がいいので、お客さんにはすごくウケていました。ただ、カヴィーナとしては、やはりやり過ぎに映ったようで。そしてついに「おい、もういい加減にしろ!」と強めに言ったのですが、それでもハニーマンがくどくやったので、カヴィーナは「違う、違う、そこはそうじゃない!」と激怒して、「もう、今日は終わりにする!」と。

Q: ディレクターはカヴィーナなのに。

K: ヨーロッパ人はよくそういうことがあるんですよ。カヴィーナはパッと帰っちゃった。

Q: みなさんは、どうされたのですか。

K: みんなシーンとしてしまって‥。 実は、毎晩、夜ご飯はカヴィーナがみんなにご馳走してくれていたんです。まあ、レコーディングのギャラの一部みたいに。そうしたら、みんなシーンとなってしまったときに、チェンバロのダヴィデ・ポッツィがひとこと、「今日の夕食は誰が払うんだ?」って‥(笑い)

Q: そのときどうされたのですか。どうでもいいけれど‥。

K:  たぶんね、あとで、カヴィーナが払ったんでしょう(笑い)

Q:  そうですよね、誰か立て替えてね。
  ところで
今回の日本公演について、日本の聴衆の方々に注目して欲しい聴きどころはどこですか。

K: モンテヴェルディ、やはりどうしても古めかしいイメージだと思うんですよ。先ほど話に出ましたが、アーノンクールとか、ヤーコプス(CD)も今となってはそういう存在なのかもしれません。なんというか、こうタテ(のライン)が決まっているというか、しゃくし定規的というか‥。そうではなくて、ヴェネクシアーナの演奏はもっと自由で、現代的な感覚とスピード感がある。そして、もの凄くエロティックな、いかにもイタリア人的な魅力を持ったモンテヴェルディ! それを聴けるのは、僕は、ヴェネクシアーナだけじゃないかと思うんです。

Q: 私たちもそこを期待したいです。

 今回の来日メンバーの中で、以前、懸田さんはラファエレ・ピさんを大変推しておられました。もちろん、マメリさんを観たくて来場されるお客さんは多いと思いますが、ほかの歌手で、この人に注目して欲しいとか、懸田さん個人のオススメのアーティストはいらっしゃいますか。

K: ラファエレは、僕がここ56年聴いたカウンターテナーの中では断トツに上手です。これからもっと売れていいなと。見かけはスーパーマンをやっていた映画俳優みたいなので、もうちょっと色気のある感じにしたら売れるのになぁって思うんですけれど‥。マジメ君みたいな感じなんです。けれど、いや〜彼は大変すばらしい歌手だと思いますね。オッターヴィア役のセニア・マイヤーさん、彼女のオッターヴィアは、ものすごく魅力的ですよ!

Q: あのぅ‥、きれいな女性はいませんか。

K: そうだなぁ、えー‥。 

Q: いないのですか!?

K: いやいや、います、いますよ、フランチェスカ・カッシナーリなんか、すごく僕の好きな歌手です‥。 

Q: ドルシッラ役ですね。 

K: それに、サルヴォ・ヴィターレはイタリアの古楽シーンには欠かせないベテランです。すごく安定感があります。

Q: セーネカ役にはピッタリですね。

K: はい、セーネカは、彼以外には思いつかないです。サルヴォは引っ張りだこのバス歌手です。

Q:  今回、3公演ともキャパシティの大きなホールですが、音の響きはとても良いと思います。ラ・ヴェネクシアーナ初の「ポッペーアの戴冠」日本公演を楽しみにしています。

K:  カヴィーナをはじめ、出演者全員が、日本ツアーに情熱を注いでいます!!

Q:  今日はどうもありがとうございました。

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